くま美術史

くま美術店の公式ブログです。するりとわかる美術史や、笑える美術の展覧会情報などをお届けしていきます。公式販売サイト「くま美術店」http://kuma-bijutsu.jp/

世界は狭いけど、その中にある可能性は大きい【1日1品】

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一昨日、「大谷工作室」さんのショーがすごくいい。と書きました。

kuma-bijutsu.hatenadiary.jp

 

昨日も書きました。

kuma-bijutsu.hatenadiary.jp

 

今日も、やっぱり書きます。


「大谷工作室」さんが主に使っている素材はセラミックです。

ようするに「陶」です。

土を水で練って、乾かして焼いたもの。

表面には「釉薬」と呼ばれる、ガラス質や金属を含んだ液体を塗り、高温で溶かしてコーティングすることで、独特の色や質感を出したり、防水性や耐久性を高めたりすることができます。

まぁ、知っていますよね。

そこらへんに転がっている「器」も、ほとんどは「陶」でできた「陶器」です。

すごく身近なものです。


「なんでも鑑定団」を見ていると、もっともポピュラーな「お宝」は古い陶器(磁器)だなって気づきます。

ずっと昔からあるし、それぞれの時代でとっても大切にされてきました。

戦国時代の武将さんたちは特に大事にしており、小さなお椀がお城と同じくらいの価値で取引されていたなんて記録も。

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いつの時代も、陶器は身近なものでありつつ、お宝でもあったようです。


特に今は、戦後最大の陶芸ブームかもしれません。

インスタグラムで「#陶器」を調べると、20万件以上の投稿があり、中にはシンプルな皿の画像に1,000近いイイね!がついている状況。

www.instagram.com

アイドル並の人気陶芸家の新作展には、販売整理券を配るほどの人気だとか。

もう。

くま美でも、陶器売ろうかな。まじで。


ただ、その中にあって、今回の展示で村上隆さんは大谷工作室さんへこんな言葉を贈っています。

ココ数年の大谷工作室さんは、なんか陶芸家としての、大谷滋(彼の本名)としての見え方が全面に出てきてて、それでいいの?と何度も問いかけてきました。今回の展覧会の展示プランを最初に観たときも、明らかに陶芸作品を見てください!的なプレゼンテーションだったので、僕は真剣に詰め寄った。

 

村上:「大谷くんは、もう、『陶芸家 大谷滋』として活動して『大谷工作室』の屋号をやめたら?」「タモリが売れてきて、真面目な仕事もしたいとおもって、森田名義に戻すみたいで、戻すんならどうぞって感じだけれども、屋号への責任、なんか甘いの俺(村上)嫌なんだよね」「Mr.も過去そういうことがあって、実名を言いたいとか言ってて、そういう中途半端な覚悟で屋号つけたんかアホ!そんな気持ちで芸術やるのやめろ!って、Mr.には言った」「しかし『大谷工作室』が『大谷滋』として、陶芸中心で行くのは俺は全然いいよ。しかし、それは陶芸家というジャンルの人間になることだからよくよく考えてね」、、、と。

 

村上隆『「工作」という屋号の意味を問う』より引用

 

日本では「現代美術」はうけません。

現代美術の若手作家で、アイドル並の人気があるやつなんてひとりもいません。

メンヘラなファン数名から熱烈に支持されている人はいても、インスタグラムでたくさんのイイねはつかないのです。

それでも、大谷工作室さんは、美術というジャンルで勝負をすることに決めたようです。


現代のクリエイターは、ジャンルの壁なんて軽々超えて、マルチに活躍をするのがクールだとされています。

でも、それぞれのジャンルには、たしかな意味があるなって私は思っています。

将棋の棋士もそうですが、狭い世界の中でも、真剣に戦っていくことは、グローバルで戦うことと同じくらいすごいことだと思うのです。


本日の1品は「黒い子」

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