くま美術史

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アーティストと言葉を交わせる贅沢【びじゅツアー】

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どこもかしこもメリーなクリスマスとなっている本日。

そんなの期待していないという方の声にお応えして、少し時間を巻き戻して先週の「びじゅツアー」の様子をお届けします。


12月17日に「カイカイキキギャラリー」へ「大谷工作室」さんを見に行ってきました。

この日は、大谷さんご本人がギャラリーに滞在して訪れた人とゆるくお話してくれる日だったため、贅沢な時間を過ごすことができました。

広尾駅から10分ほど歩きギャラリーにつくと、他のお客さんは数名。

大谷さんは、入口近くにおり、気さくに出迎えてくれました。

 

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最初に「金色のこ」という一番大きな作品の前にたち、あれこれ質問をしたのですが、とても丁寧に答えて下さります。

「重さはどのくらいですか?」

「使った粘土は350キロぐらいで、乾かして焼くと20パーセントぐらいかるくなります」

「中は空洞ですか?」

「空洞なんですが、内側から支えるための構造を粘土で作っています」

などなど、ほかにもいくつか質問をしました。

 

そのあとは畳のスペースで、前日に窯から出したという新作を前にしてまたも質問を。

 

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この距離感! すばらしい。

作り方から、その間に考えていること、普段の生活、価格についてなんかを、真正面から答えてくださる!

とんでもない贅沢な時間。


中でも印象に残っているのが、ある人から出たこの質問。

「私は音楽をやっています。音楽も、美術も、とんでもないオリジナリティや、個性をもった方ばかりで。その中で自分がどのくらい勝負できるのか自信がありません。どうやって、アーティストとしてやっていく自信がついたのですか?」

これに大谷さんは

「そういうことは、ひとりだとどこまでも考えてしまうから、人に聞いたほうがいいと思います。僕は最初は蚤の市みたいな場所で数百円で作品を出していて、そこに来てくれた人や買ってくれた人の意見に耳を傾けていました。

音楽だったら、Youtubeにあげまくるとか、なにかそうやって人の目について、意見を拾える場所に出し続けることがいいんじゃないでしょうか。」

と。

 

これ、すばらしい答えだと思います。

プロのアーティストさんは、人に意見なんて聞いてはいけないと思われがちですが、そんなことありません。

自分の世界を確立することはとっても大事。

ですが、同時に、見る人の視点に立てる冷静さと謙虚さは、かならず持っていなければいけないものです。

世界的なアーティストで、自分の世界ドバーン系の草間彌生さんも、テレビのインタビューの中で「私の言いたいことは伝わっているかしら。ちゃんと見る人に届いているかしら」としきりに気にされていました。


見る人の側にきちんと立った上で、誰もが予想しなかったものを作ること。

これ、表現の世界では、基礎であり、奥義だなって思います。

 

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幸いにも、比較的空いている時間に訪れることができ、こんな話をたくさん聞けました。(このあと、激混みしたようです。運がいい)

 

あとから参加者の方に聞いたら「作品は初めて見るし、ふだん美術に触れていないので、すごいなぁと思うけど、どのくらいの価値があるのかはわからない。でも、とってもいいことをたくさん聞けた。ファンになった。」

という意見が出ていました。


よくアマチュアアーティストの中に「作品を見て欲しいから、できるだけ言葉で説明したくない」と言う人がいますが、それって間違いだと思います。

本当に作品を見て欲しいなら、作品に興味を持ってもらえる言葉で喋ればいいだけです。

せっかく同じ国に生まれて、共通の言語を持っているのだから、言葉も表現の一部として使わないと、もったいないなと思います。

自分の作品に自信と責任を持つってことは、作品について喋らないことではなく、まず自分が作品をきちんと理解し、言葉でも表現できるぐらいしっくりと体になじませることだと思います。

 

だって、ほら、最初は遠巻きに作品を見ていた参加者の方も、お話を聞いたあとはこの目線で作品を見出すんですよ。

 

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うーむ。

まぁ、私も大学時代は「喋りたくない! 見ろ! 見たらわかってもらえる! 」と自信満々に言っていたクチなので、本当に、アレなんですが……。

いや、当時の僕は本当にあれなことばかりで。

あんな人に向かって、よくもまぁあんなことを、あぁぁぁぁぁ!!

反省してるんです。

だからこそ今思うんですよ。

ちゃんと人前に出て、自分の表現について喋れる人はかっこいいなと。


大谷さん、最後は出口まで見送ってくださいました。

今回の参加者のほとんどは、はじめてギャラリー体験で、なにも買っていません。

そんな我々に頭を下げて「ありがとうございました」と言ってくれました。

こちらこそです。

参加者のみなさんは、今までよりも美術のことが好きになったし、興味を持ったはずです。


今回は大谷さんにおんぶにだっこの企画だったので、私はなにもしていないのですが、いいツアーになりました。

ありがとうございました。

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