金と訴訟とアートとポパイ【1日1品】
ジェフ・クーンズの「Popeye(ポパイ)」という作品です。
自分でも何を言っているかわからないのですが、この作品は完成する前に400万ドル(当時のレートで約3億6800万円)で購入され、やっぱやめたとキャンセルされ、支払った価格よりだいぶお高い1200万ドルの返金訴訟を起こされたことで有名な美術作品です。
なにが起こったのか順に整理していきましょう。
登場人物
ジェフ・クーンズ(以下クーンズ)
アーティスト。「ポパイ」の作者。大金持ち。
ラリー・ガゴシアン(以下ガゴシアン)
ガゴシアン・ギャラリーのオーナーで世界一のギャラリスト(美術商)。大金持ち。
実業家。投資家。アートコレクター。企業乗っ取り屋として有名。大金持ち。
荒木了平
これを書いている人。なにひとつ名を残すこともせぬまま年齢を重ねている。貧乏。
ここからは私の妄想ベースで進めます。
ペレルマンは、いろいろな意味でアートが大好き。
今日もなにか掘り出し物がないか、ガゴシアン・ギャラリーを訪れます。
「おう、サメ(ガゴシアンのこと)! なんかいいのあるか?」
「よう、モンスター(ペレルマンの見た目)。クーンズの新作はやばいぞ」
「いくらや?」
「400万ドルなら譲るわ」
「そんなもんか。ええで。包んでくれや」
実際、資産100億ドルを超えるペレルマンにとっては、そこまで高い額ではありません。
このぐらいの額だったら、100個ぐらいはポーンと払えるだけのマネーを持っています。
「いや、まだ作品は作ってるところや。チョイ待て」
「わかった。いつになる?」
「1年半はかかるかな」
「オーケー。できたら教えてな」
400万ドル払って、ギャラリーを後にします。
完成していないどころか、影もかたちもない作品を数億円で買うなんて狂気じみていますが、こういったことはよくあります。
イギリスの有名作家ダミアン・ハーストなどは「新作の展示会をする」という報道と同時に、出品予定の作品がすべて売れてしまうということが実際にありました。
数か月後、ペレルマンのもとにガゴシアンから連絡があります。
「あの作品やけどな、ちょっと遅れそうや。」
「どんくらい遅れるんや?」
「わからんが、数か月は待ってもらわんと」
「なんやて? ふざけんなや! こっちはもう400万も払っとるんやぞ! 」
「そう言われてもなあ。まあ、人気の作家やし。じゃあ、キャンセルするか?」
「おうおう! キャンセルやそんなもん! 」
「わかったわ。すまんな」
「きっちり耳揃えて1200万返せよ! 」
「は? お前が払ったんは400万やぞ」
「アホか! クーンズの作品は、数か月もたてば何倍にも値上がりするに決まっとるやろ! 常識や! 」
「何言ってんだてめえ! そんなもん払うわけないやろ」
「じゃあ、訴訟や! アメリカなめんなや! 」
「おうおうええで! 受けて立つわ! 」
ということで、訴訟に発展しました。
さらに、ペレルマンはその他の気に入らないこともいろいろ盛り込み、「なんか、ガゴシアンがワシに嘘言って、価格を操作し、不当な値段で作品を売ろうとしてる」とまで言い出します。
ここらへんの詳細は、大事なところだけど超ややこしいので排除。
とにかく、ペレルマンは、ガゴシアンがつける美術品の価格にご立腹だし、莫大な利益を上げすぎってことを言いたいらしいです。
この訴訟はアメリカでも大きな話題に。
マスコミから訴訟について聞かれると、ペレルマンはこう答えました。
「アートは光り輝く美しいものなのに、闇が渦巻くアート市場に支配されていて悲しい。光の化身である私が懲らしめてやろうと思う」
うーん。面白い。
きちんと裁判をやって、ペレルマンの敗訴という判決が出ました。
判決理由としては、こうです。
「冷静におふたりの話を聞いてみましたが、ガゴシアンさんが嘘を言って不正に価格を操作をしたり、不当な取引を誘導したとは言えません。確かにガゴシアンさんは美術品の売買で利益を上げているわけだけれども、それは違法ではありません。だいたいペレルマンさん。あなたも、自分で買った美術品を転売して利益をあげているじゃないですか。そういう意味では、ふたりとも現代アート市場の現役プレーヤーなのだから対等です。対等である以上、納得して買った価格は正当なものです。」
そりゃそうだなって感じです。
しかし、アートに関わる人はみんな面白いなって思います。
作る方も、売る方も、買う方も。
そもそも、ジェフ・クーンズは人の作品をパクってない? 訴えられるんはそっちじゃない? という意見もあるかと。
そこらへんの説明は、また気が向いたら書こうと思います。