氷の愛嬌、ダンディズム【1日1品】
アラン・カプローを知っていますか?
カプローは1927年にアメリカで生まれました。
大学でアートを学んだ後、別の大学で有名なジョン・ケージから音楽を学びました。
ピアノの前に座ってなにも弾かないことで有名なジョン・ケージです。
結果、カプローは「ハプニング」という新しいアートを誕生させました。
今日の1品は、ハプニングの創始者、アラン・カプローの「Fluids」(流動性)です。
氷です。
氷のブロックが、積み上げられ置かれています。
これが、作品です。
溶けてなくなってしまいます。
美術品のかたちや色は、できるだけ変わらない方がいいというのが、それまでの常識でした。
もちろん何百年も前の作品は、どうしても変わってきてしまいます。
なので、それを最初に作られた時の状態に戻す専門の修理屋さんという人までいます。
修理が無理なものは、せめてこれ以上変わることがないように、慎重に慎重に取りあつかわれます。
ずっと同じでずっといい。
それが美術品の価値でした。
もっといえば、すべてのものは変わらない方がいい、と思ってる人は多いのではないでしょうか。
いつも行っている大将の田舎臭い笑顔がすてきな美味しいラーメン屋さんが、ある日ラーメンをやめて、大将がおしゃれヒゲにパリッとしたシャツを着て、こなれた笑顔でイタリア料理を出してきたら、がっかりするでしょう。
本当はそういうのが好きだったの? あの頃の大将を返してと、やるせない気持ちになると思います。
たとえパスタが美味しかったとしても、なんだか腑に落ちない。
カプローはあえて、変化する、というか溶けてなくなる作品を美術館に置きました。
美術は、見えないものや見えにくいものを、見えるようにするためのものです。
カプローが見せたかったのは、「美術館に流れる時間」と「変化してはいけないと思っている私たちの価値観」です。
ものはいつか壊れるし、その間には少なからず変化していく。
美術だってそうです。
永遠に美しいなんて、ありえない。
うーん。
かっこいい。
それを表現するための方法が、氷のブロックを積み上げるって、おしゃれすぎる。
20世紀最高の野生的なダンディズム。
それがアラン・カプローです。
ただ、彼もひとつ誤算がありました。
カプローは「アートと生活をくっつけたい」と思って、いろいろやっていたんです。
ただ、日本においては、彼のはじめたいろいろが、逆にアートって難しいなって人を遠ざける原因になっています。
それも、愛嬌だな。