くま美術史

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テクノロジーは誰がために【1日1品】

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軍人にしか見えないアーティスト(平和主義者)

 

数百年後の市民たちが、今の時代をふりかえったときには、たぶんこんな風に表現されると思います。

 

2000年初頭は、テクノロジーのカンブリア爆発と呼ぶにふさわしい。

通信インフラが世界中に行き届き、コンピューターは小型化され、あらゆるものに埋め込まれていった。

原始的とはいえ、今(未来)の時代と同じ思想でつくられたテクノロジー製品が、広く浸透をはじめていた。

人が人とつながっている時間よりも、多くの時間をコンピューターと過ごす最初の時代だ。

 

これを語るのが人間なのか、それともコンピューターなのかはわかりませんが、私は仏教徒なので、輪廻の結果コンピューターに生まれ変わることもありえるかなと思っています。

とりあえず今生では解脱できそうにありません。


まぁ、とにかく、今はテクノロジーの時代。

だからこそ、テクノロジーは誰のためにあるのかをはっきりさせておかなければいけない。

そう考えているアーティストがいます。

 

彼の名は Trevor Paglen(トレバー・パグレン)


1974年にアメリカで生まれ、シカゴの美術大学で学びます。

2006年から、最先端テクノロジーによって逆に見えなくなっていった軍事関連のものを撮影するシリーズを開始します。

グーグルアースのどこを見ても出てこない最高峰の軍事施設や、レーダーにも肉眼にも映らないUMAのようなステルス戦闘機などを、危険を顧みずに現地まで行き、撮影して発表しています。

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その延長の作品に、軍事衛星を地上から撮影した作品があります。

この写真を撮影するにあたり、世界中のアマチュア宇宙撮影マニアの人々と協力し、一切、国や軍の協力を得ることなく撮影しています。

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その延長にある作品が、本日の1品。

「Nonfunctional Satellites」(役に立たない人工衛星

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ツルッツルの丸い球。

これを、地球の外まで運び、低めの周回軌道にのせると、太陽の光を反射して、ちらちらと光る星となり、肉眼でも観測できるようになるそうです。


宇宙という、最先端テクノロジーの「戦場」に、軍や国の利益から切り離したものを投入することが目的です。

むちゃくちゃアーティストっぽい思想だけど、ばつぐんにスケールが大きい。

かっこいいわ。