くま美術史

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壊されるものと作る人【1日1品】

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アレッポ

おそらく、現時点で地球上でもっとも破壊活動が行われている場所はシリア第2の都市アレッポです。

10月8日に、国連安全保障理事会が開かれ、ロシア軍とアサド政権軍による空爆の停止決議を採決しましたが、合意にはいたりませんでした。


アレッポは、3000年から2000年前ごろは地球上でもっとも進んだ文明がありました。

空爆で破壊されてしまいましたが、市の中心にあるグレート・モスクは、他のすべてのモスクの手本になったと言われる、歴史的にも、美術史的にもすばらしい古代建築です。


私はもちろんイスラム教徒ではないので、モスクの重要性はピンと来ませんが、美術が好きなので、古代の美しい文化財は無条件で守るべきものだろうと思っています。

法隆寺も守らなければいけないし、グレート・モスクも同じように大事。


とにかくそんなものが、爆弾などという野暮ったいもので破壊されていることを考えると憤慨です。

壊していいのは、自然の力か「バルス」のみ。


もうおわかりでしょうが、本日のアーティストは Diana al-Hadid(ダイアナ・アル・ハディッド)です。

アレッポ生まれ、アレッポ育ち、生粋のアレッポガールです。

1981年に生まれ、11歳の時には「将来はアーティストになりたい」と思っていたそうです。

アメリカの美術大学に入学し、現在もブルックリンで生活しながら作品の制作をつづけています。


そうなんです。

彼女は、シリアで今まさに起きている悲劇や、イスラムという環境の中で育まれた自分自身を、作品に表現……していません。


めずらしいというか、なんというか、彼女の思想はとっても美術に寄っています。

彼女は「自分を探すために作品を作っているわけではありません」と言い切っています。

かっこいい。


本日の1品は「PHANTOM LIMB」(幻肢)です。

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美術史や、過去の作品、宇宙や解剖学、建築などから、イメージを拾い集めて組み立てた作品だそうです。

いわゆるイスラム的ではなく、むしろ古代ギリシャの遺跡のような雰囲気(上に女性の像がのっているし)。


たぶん、この作品が今のシリアの状況に重ねて見られることはよくわかっていると思いますが、彼女はインタビューでもあまりそのことを話しません。

潔い。

 

彼女はつくるだけです。

壊されていくぶんだけでも、新しい美しいものを。

誠実に。