くま美術史

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リアリズムという狂気【1日1品】

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スペインにいるアントニオ・ロペス・ガルシアという画家の絵です。

現代スペイン・リアリズムの巨匠と言われている通り、すさまじい画力です。

描けすぎ。

洗面台が、洗面台すぎる。

まさに「描けてる」。

 

私がアントニオのことを初めて知ったのは、「マルメロの陽光」という映画を見てでした。

アントニオのドキュメンタリー映画で、1枚の絵を描いている様子をカメラが追っていきます。

この時は、自分の庭に植えられた「マルメロ」という梨のような果実をつける木をずっと描いていました。

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アントニオは、リアリズムを追求する画家です。

リアリズムとは、絵がうまければいいわけではありません。

「そのまま」でないと、本当のリアルとは言えません。


余談ですが、写真は情報が切り取られすぎるので、リアリズムとは違うなっていつも思っています。

絵は、描かれていない部分をイメージさせるけれど、写真は切り取った部分をプレゼンするから。


アントニオは、リアリズムです。

マルメロを描くにも、庭にキャンバスを立てかけ、慎重にバランスを測りながら進めます。

もちろん1日では終わりません。

何日も、根気よく作業が続きます。

すると、マルメロは植物なので、だんだん形が変わっていきます。

実が大きくなり、少し下がったり。

そうすると、アントニオは測りなおします。

そして、描き直します。

また形が変わります。

測り直して、描き直します。

ずっとこれ。

アホかってぐらい、描く対象を見つめ続けます。


だから、アントニオの絵は、超絶うまいのですが、ただうまいのとはわけが違います。

画面がパチン!と、緊張感に包まれています。


筆は、柔らかいので、慣れていない人が使うと、のべーっとユルユル絵の具が広がってしまいます。

アントニオは、ものすごい観察し、なんども描き直し、決める時は一瞬で決めてくるので、絵の具がパシンッ! としているのです。


スペインに行ったら、ガウディも素晴らしい。

もうひとつ、アントニオの絵も、見る価値は十分にあります。