くま美術史

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リーディング・ミュージアム(先進美術館)について1人の美術ファンとして思うこと

さっき知ったのですが、政府(文化庁)が「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」というものを構想しているようです。それについて、思ったことを書いていきます。

 

ただ、現時点ではいくつかの報道記事を読んで知っただけなので、こみいった深い事情なんかはまったく知りません。

読んでいただいた方の中で「これは違うよ」って思うことあれば、ぜひコメントなどでお知らせいただけると嬉しいです。

(ただし、ハテナブログにはコメント返信機能がないため、いただいた意見は読ませていただき感謝すれども返信できずです。ご了承を)

 

まず、読んだ記事は以下になります。

国の「先進美術館」構想に批判噴出、収蔵美術品の流出加速? | inside Enterprise | ダイヤモンド・オンライン

政府案の「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」とは何か? 文化庁「確定事項は何もなく検討中」|美術手帖

賛否両論「先進美術館」構想。美術館の役割とは。そして人口減少時代における生存戦略はいかに。:アートをおしきせ 20180520 | ARTLOGUE

美術作品の売買で市場活性化、文化庁の「先進美術館」構想に全国の美術館が「NO!」 | ORICON NEWS

美術作品の売買で市場活性化、文化庁の「先進美術館」構想に全国の美術館が「NO!」 - 税金やお金などの身近な話題をわかりやすく解説 - 税理士ドットコム

 

どこも書いていることはだいたい同じで、リーディング・ミュージアム(先進美術館)っていう構想が出たよ。なんか、日本の美術館にある作品を売りたいらしいよ。けど詳細はわからず、これから慎重に議論して行く姿勢が求められますねってとこです。

 

これに対して市井の方々の反応をtwitterで見てみると

反対が多数。

 

 世界的アーティストの奈良さんや、全国美術館会議も、反対しているようです。

 

つまり、世論も現場関係も、ほぼほぼ反対のようです。

 

最初っからつまずいてますね。

 

それでも、私は賛成です。

いいんじゃない?って思ってます。美術品の流通を促して、価値を高めていこうっていうことは、いいことだと思っています。

個人は企業のコレクターに税制上の優遇を行い、リーディング・ミュージアムへの寄付を促す。リーディング・ミュージアムは国内で残すべき美術作品を検討、アートフェアやギャラリーから購入し、一定の作品はオークションで売却して流動化することで、美術作品の価値を高めて市場を活性化させるという構想だ。

この考え自体は理解ができます。実際に以下のような現場もあるわけですし。

多くの美術館の収蔵庫がすでに限界に近づきスペースが足りなくなってきている問題もあります。作品をコレクションをしているということは有限なスペースを消費している側面がある上、保存や管理のための費用も必要です。また残念ながら国指定の文化財の公開率はわずか1.5%ほどで死蔵化されてしまっている状況です。

 

ただし!!!

 たぶんうまくいかないと思います。

その理由は大きく分けて2つ。

 

1. 政府主導でものが売れるわけがない

わけがないです。美術品を売るってことは、個人に対して売るわけです。BtoCです。

鉄道や、発電設備などのインフラを外国政府に売るのとはわけが違います。

市場でものを売るってのは大変なことです。商品のことをしっかりと研究し、少しでもよいものをつくり(選び)、優位な価格を設定し、きちんと接客をしてお客さんのニーズを聞き、頭も体も精神も使い切って、それでやっと売れるかどうかってところです。

 

私は、同世代(30歳前後)の起業家の友達が多いのですが、みんな苦労しています。

その中で少しづつ成功の兆しが見えているのは、後の無い人たちです。

1番仲のいい起業家の友達は、今では順調にビジネスの波に乗っています。けれど、たった1年前にはキャッシュが尽きかけて、莫大な借金だけが残りそうな状態でした。

「このままだとお金がなくて解散。どうにもならない」と言っていた状態から、必死に地道に商品の改良や、伝え方の工夫、お客さんの話を聞くことで少しづつ売れるようになり、やっと軌道にのりはじめました。

彼曰く「昔は、いい大学とか、渡米経験とか、そういう"箔"があれば自然に成功するものだと思っていたけど、そんなことは全く必要じゃなかった。信じて、地道にやっていいくしか道はないんだと思う」です。

 

政府の方々にこれができるとは思えません。

こんな百貨店つくっちゃうくらいだし。

news.yahoo.co.jp

 

また、海外のアート市場が大きいのは、アートに関わる方々の不断の努力の賜物です。

いつだったか、なんかの雑誌で奈良美智さんのインタビューが載っていて、こんな話が書かれてました。

「僕(奈良さん)は基本的にメールの返信とかしないんです。なので、ニューヨークで僕の作品を売っているギャラリーは困って、日本語のできるスタッフを雇って、日本語でメールをしてくるようになりました。僕1人のために。でも、僕は言ったんですね。そんなことしても、メールは返信しないよって。そうしたら、ギャラリーの人はこう言うんです。私たちは、あなたの作品を売って生活している。だから、あなたとあなたの作品のためにできる限りのことはすべきだし、日本語ができるスタッフを雇うことはただの義務だ。って。それを聞いてちょっと感動してしまって。」

 

うろ覚えだけど、だいたいこんな内容だったと思う。

政府のお役人さん主導で、こんな発想には絶対にならないと思う。アーティスト風情が、こちらの連絡を無視するなんて言語道断だ!とか、思っちゃうでしょ。

 

海外でアートが大切にされ、市場が大きいのも、1人ひとりの意識が高いことが中心となっているんです。

もちろん税制面の優遇とか、歴史的な背景は大きく影響しているけれど、それだけでギャラリーを開けばお客さんが押し寄せるような状況はどこにも無いです。

 

美術作品というのは、アーティストが、自身を取り巻く様々な状況の中で育んだ問題意識や美意識を、圧倒的なアイデアと技術を持って世の中に表出したものです。

だから、売る側には、アーティストの人間性全てを肯定していく必要があります。メールを返せないんだったら、それはアーティストの人格形成に必要な要素だったと判断して、受け入れ、かつ、できる限りの努力でそれを補っていくしかありません。

やっぱり、アーティストを尊敬できない人たちに、美術作品を取り扱うことは難しいですよ。

特に現代美術は、金や宝石のように、誰が見てもなんとなく美しいってわかるようなものじゃないから。

目に見えにくい問題を表現するために、あえて一部の人には嫌悪感を抱かせるような表現方法もあるわけだし。理解できないと思いますよ。たぶん。

だから、石油の価値がわからない人が石油を売れるわけないのと一緒で、美術作品の価値を心から信じて、さらに地道に努力を継続する姿勢がなければ、絶対に売ることはできません。

 

政府にビジネスは無理だし、それがアートとなればもっと無理!

 

2. 売りたくない作品から売れちゃう

2番目の理由は、これです。いきなり前言撤回となるけど、それでも、日本の美術館にある収蔵品を海外オークションにかければ、それなりに売れるとは思うんです。だって、日本の収蔵品は魅力的な作品が多数あるから。

上野の国立西洋美術館や、竹芝の国立近代美術館のコレクションにある印象派ピカソレベルの大作家の作品は、すぐに数十億の値がつくと思います。

現代美術も優秀で、清澄白河東京都現代美術館のコレクションとか、金沢21世紀美術館のコレクションなんて、どこに出しても賞賛を得られる素晴らしいものです。

 

だけど、これ売ってどうするの?って話です。

各館の目玉になるような作品がなくなってしまっては、問題あるというか、じゃあ、なんのために美術館があるの?そこに、なにを見にいけばいいの?って話になりますし。

だいたい、素晴らしい作品は、永続的に巨万の富を生み出します。モナリザなんて、今だに年間いくらのお金をフランスに落としているか。モナリザ目当てで来る旅行客はもちろん、グッズ販売や、宣伝効果まで考えたら、なんかすごそう。

今売れるから売るって短絡的な価値よりも、長きにわたって持続していく高い価値を見落とさないようにしてほしいです。

 

なにより、美術館というのは、1点1点の作品の素晴らしさよりも、テーマに基づいた作品の集合体を楽しむ場所だし、そのためにいろいろな作品を集めています。

その集合を見て「この時代の人はこんなことを考えていたんだね。そしてこの時代に繋がっていくんだね」なんて見方ができるようになっているんです。あまり重要視されていないけれど。

そのため、そこから1つの作品がなくなってしまったら、全体の価値を著しく損なう結果になることもあります。

 

そして、最も憂慮される事態としては、わりと最近の作品が、不当な価格で取引される恐れです。

これは、明治時代に、江戸絵画を、二束三文で海外流出させ、その価値をいち早く認めたアメリカのボストン美術館が、壮大なコレクションを形成し、日本に逆輸入しているような事態が考えられます。

岡倉天心とかが戦略的に海外に輸出した部分はいいんですよ。でも、そうじゃないものがたくさんあったから)

もっと最近だと、村上隆がニューヨークのアート市場で脚光を浴びて帰ってきたこととか。

これらを日本の経済的な損失で合計したら、恐ろしいことです。

 

売れたらいいってもんじゃ無いんです。価値がわからないと、巡り巡って大損こきます。

 

そして、結局は、売りたい作品。つまり、そこそこの価値である作品(具体的にどういうっものかはわかりませんが)は全く売れないという結果になり、必要なものはなくなり、不必要なものが残る結果となります。

 

ふむ。

賛成とは書いたけど、まぁ、やらない方がいいなって思ってます。

でも「アート業界最後のフロンティア日本」で、市場を活性化させる必要はあるし、個人単位のアーティストやコレクターから見ても、その意義は大きいと思います。

 

それでは、どうしたらいいか。

こうすれば、このプランは成功するんじゃ無いかなって思うことを書いていきます。

 

3. 日本政府がアート業界のためにできること

 

【美術作品の購入金は税の控除対象に】

まずこれです。なんか、このプランでも、作品を買って、それを寄付してくれたら、控除するよって書かれてますが、そんなまどろっこしいことはいらないんです。

まず、作品売買をしているギャラリーを登録制にして、その税率を上げる(もしくは、登録料を取る)。ただ、企業や個人が、このギャラリーから作品を購入した場合その額を100%控除対象にできる。

こうすると、企業はせっかくあげた営業利益を税金で取られるぐらいなら、美術品という資産に置き換えて、手元に留保しようとするはずです。そして、これは資産なので、価値が下がることは避けなければいけません。そうすると、ギャラリーに対してより厳しい目が向けられ、美術のことをより知っていこうという社会全体の動きが期待できます。

これいいと思います。

問題点としては、国内のいくつかの企業が、特定の美術作品を回し続け、税金も取れず、作品も実際の価値と乖離したただの記号に変化してしまうこと。これを防ぐには、控除対象となった美術品を売却する際には、海外へ売却する、もしくは政府の影響下にない専門家が売却価格を決めるなどが考えられます。

 

【正しい美術教育の普及】

これは急務!私自身が義務教育で受けた美術教育はお粗末というか、害悪でした。

いくつか愚痴ってもいいですか?今でも根に持っている、小学校教員から言われた心無い一言。

「なんで輪郭線を描くの!(激怒)」

自画像を水彩絵の具で描く課題だったのですが、輪郭を黒い絵の具で描いたら、なぜか激怒されました(小学校4年時)。今でも、は?って思います。骨描きだよ!日本画の基本技法だろ!だいたい、指導すべきはそこじゃねえだろ!お前の指導こそ、表面だけなぞってるだけだろ!って思いました。

星野富弘さんに謝れ(激怒)」

私の育った群馬県星野富弘さんの出身であるため、星野さんファンのいかがわしい教員が、説教がてらその絵を見せてきます。当時(小学校2年)、その絵はよくかけていたと感じたので、「僕も口で描いてみようかな〜」と素朴な感想を口にしたら「星野さんはそんなことがしてほしくて描いたんじゃない!謝れ!」と凄まじい剣幕。勢いにやられて泣きながら謝ってしまったのは一生の不覚。今だったら「お前にこそ、気味の悪い道徳心に基づいた、上からの権威的な評価で絵を語るだけにとどまらず、生徒にまでその評価を押し付けようなどと、全表現者の敵だ!」って言い返します。

「もっと自由に(自由はない)」

これは何度言われたかわかりませんが、なぜかよく言われた言葉です。言ってるわりに、自由はないんですよね。だいたい、美術における「自由」とは、なんでも自由にやればいいというものではなく、憲法表現の自由のようなもので、なにを、どんな表現方法で表したとしても、公共の益を著しく損なわない限り、誰にも規制されるべきものではないということです。技術も思想も未成熟で、根本的に自由である小学生に「もっと自由に」なんて言っても、自由のなんたるかを理解することは難しいです。むしろ「先生こそ、もっと肩に力を抜いて自由になってほしい」と言いたい。

 

こんな感じで、そうとう美術のことを勘違いして育ってきました。その後、大学で学んだり、海外の美術館で学んだ美術(アート)は、全く違う世界で。

 

少なくとも、作品を本気で作ったり、キュレーションを本気でしたことのない人間は、美術教育をしてはいけないと思います。思います!

 

【大学授業料を基本無料に】

これも大事。基本、美術大学は金がかかるんです。私大だと年間150万円〜200万円。公立の美術大学でも100万円弱の授業料と施設使用料がかかります。これに、作品の制作費がかかるし、なにより、美大生っていうのは一般の方々が想像されているよりも、とても勉強熱心なんです。私のいた大学でも、バイトをするなら作品を作れ!という無言のプレッシャーが学生間でもありました。この際、美術に限らず大学(国公立)の授業料は基本無料にして、いい人材を惜しみなく育てましょ。ドイツは、これで成功してるし。

 

こんなところですね。

 

売るとかそういうのは、市場に任せておきなさいって。

政府のすべきことは、市場自体の健全性を保つために、最低限、やらなければいけないことをやってください。

そうしたら、最大限の価値を出すために、頑張る人は数多くいます!

以上!

お疲れ様でした!