くま美術史

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見えているようで、ぜんぜん見えていなかったものが、見えた時【1日1品】

 

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ふう。

今日あたりから本格的な冬になったって実感があります。

本日は、日曜日に行ってきた「びじゅツアー」のレポートを。


今回は、師走に1週間前の告知というむちゃくちゃなスケジュールながら、6名もの方々にお集まりいただき、安心したところからのスタートでした。

きてくれたみなさま! 本当にありがとうございます!

しばらくは、頭を垂れて過ごします!


六本木の「国立新美術館」にて「シェル美術賞2016」を見たのですが、見たものよりも参加してくださったメンバーが最高でした。

まず最高だったのが、「るくぜん」の難波さんにお越しいただけたこと。

難波さんは、職業が「盲人」なので、目でものを見ることはしません。

そこで、他の参加者の方といっしょに、言葉で絵を伝えながら進んでいきました。


でね、そうすると、目でものを見る人たちは、みんな同じような言葉で絵を伝えると思うじゃないですか。

ぜんぜん違うんです。

言葉が違うというより、そもそも見えているものが違うんです。


ある絵の前で、「これは女の子が寝ている絵だ」という人あれば、
「いや、死んでるんじゃないかな?」という人もあり。

また別の絵では「雪の舞っている絵で……」
「いや、桜吹雪でしょ」というような具合。

まるで意見が噛み合いません。


また、見ているうちに新しい発見があり「あ、灯台がひとつだと思っていたら、たくさんあった」「ペンギンは親子だった!」など、意外と見えていないことにも気づく。


こんな調子で喋っていいると、最初は「美術とかよくわからなくて……」みたいな可愛いことを言っていた人々も、

「なんでこの絵がグランプリなの?? ぜったいあっちの方がいいでしょ。」「いやいや、あちらの方が!!」

と、どんどんヒートアップしていきます。


この写真は、グランプリを受賞した(賞金150万円)の絵の前で、好き勝手にしゃべる参加者の方々の図です。

 

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(あ、本日の1品は、いちおうこの絵ってことで)


まぁ、楽しかったんです。

会場を何周もぐるぐる回りながら、じっくり見て言葉にしていく。

でも、その言葉は人によってぜんぜん違う。

「ものを見る」ってことの、むちゃくちゃ深い部分を、自然にできた素晴らしき時間でした。


私たちは「目が見える」と思っています。

たしかに、目は見えるかもしれません。

でも、「目が見えること」と「ものごとをきちんと見ること」の間には、とっても大きな差があります。

美術の作品を作っているとよく思うのですが、まぁ、僕は、ものが見えていない。

作品をつくるために集中して集中して、やっと少し見えてきます。


あれです。

バガボンド」で沢庵和尚が武蔵にいう一言。

 

一枚の葉にとらわれては
木は見えん

一本の樹にとらわれては
森は見えん

どこにも心を留めず
見るともなく全体を見る

それがどうやら…
「見る」ということだ

 

これ! さすが和尚!!

これが、ものを見るということなら、僕はふだん、見ていないんです。

たぶん、ほとんどの人も、見ていないと思います。

それに気が付けるって、ものすごく贅沢な体験だなって思いました。


でも、ただ「目の見えない人」といっしょに美術館に行くだけでは、なかなかここまでの体験はできないと思います。

難波さんがすごいんです。

参加者の方が、絵を説明すると、いちいち的確な質問が返ってくる。

「本当は見えてますか?」っていうほど、的確な質問。

それに誘導されて、こっちもどんどん視野が広がり、奥の方が見えてくる。


なので、今回は難波さんにすばらしいツアーをつくっていただいたと思う。

そして、初対面の人もいる中で、しゃべり倒していた参加者の方にも感謝です。


あー、なかなかに得難く、すばらしい時間でした。

 

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それにしても、私(青いパーカー)はなんでいつもこんなに気持ちの悪い足の組み方をしているんでしょう。

根性が曲がっているんでしょうか。