くま美術史

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ゆるめなイスラムが表現する圧倒的な世界【1日1品】

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偶像崇拝が禁止されたら、なにを拝めばいいのでしょう。


Idris Khan(イドリス・カーン)はイスラム教徒のアーティストです。

生まれはイギリスですが、両親がパキスタン人で敬虔なイスラム教徒のため、彼も自動的にイスラム教徒となりました。

とはいえ、彼自身はそれほど敬虔なわけではなく、ゆるイスラムだそうです。


ゆる教徒とはいえ、彼の代表作のひとつに、「コーラン」をつかった作品があるのはそういった背景からです。

 

本日の1品は「Displacement」(変異)

 

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壁に、黒い模様がバーッと描かれています。

これを近くから見ると、こんなかたち。

コーランの言葉が、スタンプで押されまくっているのです。

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美術館の中で、遠くの壁にこれがあるのを見て、近づいてみると文字の羅列が見えてくる。

鳥肌たちますよ。


コーランを何層にも重ねていくのは「記憶を圧縮する実験」とのこと。

個人の記憶だけでなく、イスラム教という信仰が、何世代にもわたり受け継いできたものを、圧縮して、新しいかたちを探し出す。

偶像をつかわずに、文字を変化させて別のものにしていくって、まさにイスラム的な発想。


作業風景は、とことん地味です。

スタンプを、ぺたりぺたりしていくオンリー。

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