ソーシャル・スカルプチュア【1日1品】
アーティストの社会性。
浮世離れの極地にあるのがアーティスト。だと思われているふしがあります。
ノーノーノー。
古代から、優れたアーティストは社会の中でしっかりと表現活動をおこなってきました。
もちろん中には、ゴッホやヘンリー・ダーガーなど、人とほとんど接点を持たない生き方をしてきた人もいますが、多くの作家はふつうに生活をしながら作品を世に残していきました。
というのも、美術とは、見えないものや、見えにくいものを、見えるようにする方法。
つまり、課題解決型のエンターテイメントなんです。
見えないのは困る。
見えるようにしよう。
できるだけ、見ていて楽しいかたちで見えるようにしよう。
それが美しさだよね。ってことで、美術は3万年ぐらいやってきています。
ディズニーランドと基本思想はおんなじですね。
そうやってつづいてきたものを、ある天才がさらに大きく進化させました。
ドイツの作家「ヨーゼフ・ボイス」です。
彼は戦後、急速に復興をしていくドイツで、開発のために伐採されていく森林を見て、抗議のために7,000本の樫の木を植えるプロジェクトをはじめます。
多くの人の手で木が植えられる様子を「社会彫刻」と言いました。
で、ここからが今日のアーティスト。本日の1品。
この社会彫刻というプロジェクトの正統後継者が、現在アメリカで活躍中です。
彼の名は Rick Lowe(リック・オウェ)
1985年にアラバマで生まれました。
テキサスの大学で美術を学び、その後はMITの研究生となるなど、アーティストとしての道を進みつつ、さまざまな分野に関心を持っていきます。
そして2014年。
故郷であるアラバマで「Project Row Houses」(長屋プロジェクト)をはじめます。
薬の取り引きや、売春宿として使われていた長屋を買い取り、アーティストに住居兼工房として解放します。
その隣は、シングルマザーの家族のために解放され、危険地帯だった場所を、クリエイティブで安全な場所に変えようとする試みです。
リックはこの長屋のことをこう表現しています。
「この長屋は、アフリカン・アメリカンの歴史とアートを通して、ここにあるコミュニティーを変えていくための装置です」
当初の資金は、エリザベス・ファイアストン・グラハム財団と、アメリカ芸術基金から調達することでまかなわれました。
現在も、この活動は順調につづいており、住んでいるアーティストはワークショップをしたり、近所の子どもたちに絵を教えたりして、本当にコミュニティーを変えていっています。
すごい。
日本も、最近は「地域振興」のためにアートの展示をやったりするけれど、スケールの大きさが桁違い。
ただお客さんを呼ぶためだけのアートではなく、人々の意識を変えるためのアート。
もしかしたら、日本に必要なのはこういったかたちのアートなのかもしれないなと思いました。
ちなみにリックも「Power 100」にランクインしています。
昨年と変わらずの89位。
ランクインしている中では、圧倒的に若手です。