くま美術史

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くり返しくり返しくり返しくり返し【1日1品】

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女性、それは謎。


今、アジアで最も注目されるアーティストのひとりがマリア・タニグチです。

タニグチという姓から日本人との関連が予想されますが、本人は生粋のマニラっ子(そんな言葉があるか知りませんが)。

今も、生活と作品制作の中心はフィリピンのマニラです。

マリアという名前からわかるとおり、女性です。

けっこうかわいいです(好み)。


女性のアーティストというのは、100年ほど前まではほとんどいませんでした。

美術はむさ苦しい男の世界だったんです。

ですが、今、日本の美術大学は7割が女の子です。

世界的にも、似たような状況らしいです。


現代美術はとにかくいろいろな素材を使った多様な表現が多いのですが、これも女性アーティストが増えてきたことが一因にあるとおもいます。

やっぱり、女性がつくる美術作品は、根本的に男性がつくるものと違うんです。


特に私が「女性っぽい表現だなぁ」と思うのは、「身体」と「反復」をつかった表現です。


女性は、男が不可能な「こどもを産む」ということが可能です。

そのため、そうとう男の体とはつくりが違うようなのです。

見た目とか、胸があるとかそういうこと以上に、肉体というものの感じ方がなんかいろいろ違うらしい。

生物学的にどっちも経験した人はあまりいないので細かいことはよくわかりませんが、なんかすごく違うらしい。

女性の方が、なんかダイナミックに自分の体を感じているっぽい。

そのため、女性は表現をする際に、「身体」というテーマを扱う人がやたら多いのです。

大学時代に「これは生理をイメージしてつくりました」という作品を見せられたおじいちゃん教授の困り顔は、今でも忘れられません。


もうひとつが「反復」。

女性は、なぜか同じ作業を、ずっと繰り返して作品をつくることを好みます。


いや、そんなこと言えば、絵を描くことなんて、男性も女性も変わらず、絵の具をペタッと画面に置くという作業の繰り返しでしかないんですが。

そういうのを超えて、なんかもう、病的なまでにくり返しくり返しおなじ作業を続けるんです。

 

まぁ、見てください。


本日の作品はマリア・タニグチの「Untitled」(無題)という作品です。

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この黒い絵は、丁寧に丁寧に黒い絵の具を塗って描かれています。

こんな風に。

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で、この大きさにまでなります。

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わお。


黒いレンガのブロックを、延々描き続ける。

それだけだからこそ、この作品は一切の「雑味」がない迫力に覆われています。

目の前に立つと、なんかもう、全身針で刺されるような、包み込まれるような感覚におそわれます。


ちなみに、本日は「女性」と「男性」を無理やり分けて話を進めましたが、もちろんそれぞれ個人個人でバラバラです。

そんなことはわかっています。

トランスジェンダーっていう性がいることも知っているというか、美術の世界はLGBTむちゃくちゃいるので、いちいち気にしません。

もっと変な奴もいっぱいいます。

女性だったら誰でもマリアさんほどのすごい作品が作れるわけではありません。

でも、まぁ、女性というのは、やっぱり謎であり、だからこそ魅力なわけです。

悪しからず。