くま美術史

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美術が好きな人はドM【1日1品】

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パワープレイが過ぎる!


褒め言葉です。

本日の1品は、フランス人アーティスト Pierre Huyghe(ピエール・ユイグ)の「Untilled」(無題)です。

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横たわった女の人の頭に、蜂(ミツバチ)がたくさんついています。

この蜂、生きています。

というか、この彫刻の頭が「蜂の巣」になっているので、蜂はここで暮らしています。


美術は、すくなくとも3万年ぐらい前からずっと続いています。

その目的は「見えないものや見えにくいものを、見えるようにすること」です。

必然、誰かが、今まで見えなかったものを見えるようにしてしまったら、もうそれは見えるものに変わってしまいます。

そのため、次の世代のアーティストは「新しい見えないもの」を探さなければならなくなります。

よって、美術は絶えずアップデートされていきます。

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そして今、ピエール・ユイグが、彫刻に蜂の巣をかぶせました。

もちろん、ピエール・ユイグもなんとなく無茶苦茶なことをしているわけではありません。


美術って、やっぱり作品と鑑賞者の距離が遠いんですよね。

なんせ、作品は「もの」なので、こっちのことを考えてくれません。

向こうから歩み寄ってきてくれないのが美術です。


音楽とか、演劇だったら、人対人なので、観客の雰囲気とか見ながらいろいろやってくれますが、美術はそうはいかないんです。

そういう意味では、美術が好きな人ってドMだなって思います。


そこで、ピエール・ユイグは無理やり見ている人と作品の距離を縮めてしまおうということで、この作品を作りました。


ミツバチなので、ある程度自由に動き回ります。

しかも、刺します。(ロサンゼルスの美術館に展示された時には、残念ながらガラス越しにしか鑑賞できないようにしていましたが)


ただ、ミツバチは基本的にはおとなしい。

これがスズメバチだったら、ただの生物兵器でしょうし、バッタだったら数時間でいなくなってしまいます。

ミツバチは、人間とコミュニケーションがとれるギリギリの生物なんです。


だからこそ、人間と自然の関係や、美術を展示する場所のイメージ、美術そのものについてのイメージなどを、はっきりと見ることができます。


ただ、この作品、すごく計算をされているかといえば、そうでもありません。

この作品に対して、ピエール・ユイグさんはこう言っています。

「僕は場所と装置を用意して、それを見守るのが好き」

ようするに、何が起こるかはわからない。楽しみ! って姿勢です。

パワープレイだなぁ。