くま美術史

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彫刻は怖い夢のように【1日1品】

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夢に出てきそう!


小さな頃、繰り返し見た怖い夢があります。

薄いクリーム色の大きなドーナツのような形が目の前にあり、なんだか息苦しくなるという夢です。

正確に言うと、ドーナツではなく、ケンタッキーフライドチキンで売っている「ビスケット」のような形状です。

表面はシリコンのような素材で、なめらかな印象です。


他は何も出てこず、これが目の前というか、夢の空間いっぱいに広がり、重く息苦しい感じ。

あれは何度経験しても怖かったのを覚えています。


本日の1品は、Katharina Fritsch(カタリーナ・フリッチュ)の「Rat King」(ネズミの王)です。

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こんな作品なのですが、必見なのはその大きさ。

人が横に立つとこうなります。

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でかい…

圧倒的にでかい…

夢に、出てきそう。


1956年にドイツで生まれたフリッチェは、80年代に等身大の精巧な「ゾウ」の彫刻を発表し、注目されます。

これこれ。

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いちばん怖いものって、ツノがいっぱい生えているゴテゴテした化け物みたいなものではなく、シンプルで表情のないものです。

フリーザ」が、第3形態から第4形態に移行したときの、はてしない絶望感。

フリッチェの彫刻は、それがあります。


非日常な空間。

というキャッチコピーをよく見かけますが、フリッチェの作品ほど非日常で非現実的なものはないと思います。


だからこそわからない。

この作品、スイスの製薬会社「F・ホフマン・ラ・ロシュ」の元オーナーが創設した「エマニュエル・ホフマン財団」が超高額で購入したのですが、なんで!?

こんなの身近にあったら、怖すぎるだろう。

でも、怖いものが見たい気持ちは理解出来る。

しかし、所有するって…怖い。


いや、逆か。

怖いものだからこそ、身近に置いておきたいのかも。

私も最近は「怖い夢」を見る機会がなくなり、あの頃の目を開けても閉じてもどうにもならない不安感みたいなものが感じられなくなってきています。

そうなって見ると、不思議なもので、あの夢が見たくなるんです。


たぶん、小さな私は、圧倒的な恐怖と同時に、あの夢の中で美しさを感じていたんだと思います。

どうにもできない恐怖は、とても美しい。と