見ようとしたら、見えるっ【1日1品】
能天気な顔。
彼は人類史上、最も能天気なスタイルで、作品を量産するマーティン・クリードです。
マーティン・クリードの作品は、美術というよりは音楽に近いなって思います。
それも、DJとか、DTMみたいな、音を集めてくっつけるみたいなやり方の音楽に近いです。
どういうことかというと、例えばこんな感じ。
「Work No. 227, The lights going on and off」(作品番号227 ライトが点いたり消えたり)
美術館の一室に入ると、そこには何も置いてありません。
天井のライトが、5秒おきに点いたり消えたりします。
これは盛り上がるね!!
もしくは
「Work No. 850」(タイトルはこれだけ)
これは、美術館の中を、一定の間隔で、ランナーが全力疾走するという作品です。
美術館の中を、全力で、走るんです。
我々は、それを静かに眺めます。
これは感動だね!
もしくは、これ。
「Work No. 268, Half the air in a given space」(その部屋の空気の半分)
美術館の一室を、風船が埋め尽くしている作品です。
今日の1品はこれです。
楽しそうですよね。
見ての通り、なんの変哲もない大量の風船が部屋に入れられています。
そこを、かきわけて進んでいく作品。
これがなんで美術なの?? っていい質問をセンキュー。
美術とは、見えないものや、見えにくいものを、見えるようにすることです。
マーティン・クリードはまさにこれ。
普段は見えにくいものを、すごく見えやすくしているのです。
例えば、最初の電気が点いたり消えたりする作品は「空間」っていうなんとなく理解できるけど、どう説明していいかわからないものを、すごくわかりやすくしています。
「光の当たったところが、この部屋の空間です」というように。
次のランナーが走る作品は、モラルやマナー、ルールが見えるようになります。
美術館は、走ってはいけないところです。
美術館以外にも、走ってはいけない場所は多くあります。
でも、走ることは、悪いことではなく、いいことだと言われます。
いいと、悪いの間には、何があるのかを、見えるようにしているのです。
そして、風船。
これが一番わかりやすい。
これは、部屋の空気を見えるようにしています。
そのまま。
風船がなければ、この部屋は「なにもない部屋」と言われたと思います。
本当は、しっかり空気があります。
見えないのではなくて、見ようとしていないだけ。
意識すれば、そこにはいろいろなものがある。
と、マーティンは言っている気がします。