くま美術史

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パンク野郎はけっこう好かれる【1日1品】

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ロシアのプーチンじゃないよ。ウールだよ。

 

にわかに、クリストファー・ウールが脚光を浴びています。

きっかけは、芸能人の紗栄子さん(モデル? )という人がインスタグラムに投稿した1枚の写真。

www.instagram.com

ここに写っている絵が、とんでもないものだと話題になっています。


確かに、これはとんでもないな。

クリストファー・ウールだ。


みなさん信じられないでしょうが、これを描いたクリストファー・ウールは2015年に世界中で開かれた美術のオークションで、19番目に売れた作家です。

1位はピカソ

2位はアンディ―・ウォーホル

3位はクロード・モネ

あいだにいろいろいて

15位がゴッホ

17位がバスキア

19位がこの、ウールです。


ウールの2015年オークションの成績は、

1年間で取引された作品46品。

最高価格は$29,930,000(約30億円)。

取引総額は$113,952,823(約113億円)。


もう働きたくない!!

私なんて、今日、おやつを食べたいけど節約するために50円のベビースターラーメン食べたんだよ!!

億ってなんだ!!!


そうです。

この、ばかでかい文字だけの作品が、何億もして、いくつも、売れているんです。

生きているアーティストとしては、間違いなくトップレベルでしょう。


まずは、これの何がすごいのって話を超簡単に。

ポップアートというものが、大流行しました。

アーティストも、ポップスターのように有名になり、雑誌のカバーを飾ったりしました。

クリストファー・ウールはブチ切れました。

「俺がポップを解体してやる」

ということで、彼は、スプレーと銃(!?)で絵を描き、最後に有機溶剤でその絵を消す(!?!?)というとんでもねえことをし始めます。

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1980年には、「地獄の黙示録」のセリフを引用した作品を作ります。

とにかく暴れん坊な彼が最後に行き着いたのは、シンプルな言葉を大きなキャンバスにペンキで描くという、このシリーズでした。

パンクなんです。

今まであったポップアートは、カラフルで、おしゃれで、ラブアンドピースな感じ。

それに対して、ウールさんは真っ向から喧嘩を売ったのです。

白黒で、いかつい文字だけだ。

アートなんて糞食らえだ!

という、力強いメッセージが、バカうけ。

ウールさんの作品は、すごく評価されるようになったのです。

つまり、パンク。


美術は、長い長い歴史があります。

その歴史は、常に前の世代の人に対する、尊敬と、破壊の連続です。

ルネサンス印象派なんて、すごくわかりやすく前の時代の人たちに喧嘩を売っています。

反骨精神は、見ていてけっこう気持ちがいいのです。

アーティストという、よく分からない生き物が、一生懸命ひとりで戦っている姿は、なんだか応援したくなるのです。

そんな感じ。


あと、これだけは言わせて。

どうやら、この絵を買ったのは「スタートトゥデイ」社長の前澤さんという人らしい。

この方は、すごくアートに投資をしている、珍しい日本人。

若いIT社長がアートに手を出すと聞くと、なんか税金対策なんかなとか、投資目的なんだろうなとか思われがちですが、全然違います。

彼は、今、1番評価されている作家の作品を、超高額で少しだけ買います。

 

投資目的の人は、こういう買い方しません。

投資目的で買うなら、人気があまりない作家の作品を大量に購入します。

買ったあとで、価値を高めて、ちょっとずつ、高く売るのです。

安く仕入れて高く売るという、商売の基本そのままです。

 

前澤さんは高いものを、高い値段で買っています。

本当に、好きなんだと思います。

ええことやで。

日本の作家も買ってくれたら、最高なんだけどな。