くま美術史

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夢の世界に行きたかったのに……【1日1品】

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これが木でできているって信じられます?

今日は上野にある東京都美術館で開催中の「木々との対話」というショーを見てきました。

その名の通り、木を素材に扱っている現代の作家5人の作品が集まっています。

トップの画像は須田悦弘さんの「薔薇」です。

 

でも、本日の1品は、土屋仁応さんの「豹」。


作品の前に、とりあえず、いまいちだなって思ったところから。

土屋さんの作品の売りは、とにかく現実感のないほどに滑らかなフォルム。

ひたすらに滑らかに仕上げられた木彫(もくちょう)の像は、神話の世界の様な雰囲気がある……はずなんだけど。

ちょっと荒かったです。

遠くから見たり、写真で見る分にはいいんですが、近づいてみるとちょっと荒いかな。

いや、もちろんすごい技術だとは思うんですが、逆にこれほどに高いレベルの技術の中だと、ちょっとした部分の荒さが目立つ目立つ。

仕方がない部分であることは理解できますが、木の割れ。塗りの境目。

これ、どうしようもないのかなあ。

夢の世界を期待して行ったのに、現実の苦労があまりにも見えてしまう。


いっしょに展示をされていた須田悦弘さんや、舟越桂さんと比べると、荒さが目につくんです。

舟越桂とか、荒いとか荒くないとかどうでもいいぐらいパワープレイで押し切っていて気持ちいいんですが、それもない。

ただの悪口ですが、写真映えするし、デザイン的な使われ方だけのほうが、よっぽどいいなって思いました。


とはいえ!

とはいえです。

むちゃくちゃすごい。

この「豹」に関しては、しっかり神話の世界にいました。

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けなしていたのに、いきなり褒めだす。なんか、メンヘラみたいな文章になってすみません。

すごい!し、共感できるし、尊敬できる。

土屋さんが木を彫りはじめたきっかけ。

「木の繊維をスッと剥いでいく感触にハマった」と書かれていたのですが、これものすごくよくわかります。

私も、大学時代は木を彫っていました。

木を彫るって、すごく気持ちがいいんです。

カリッカリに研いだ刃物を、スッとあてた時の吸い込まれる感じは、病みつきになります。


また、木は個として生きている素材なのでわがままです。

割れたり、曲がったり、折れたり。

ぜんぜん言うことを聞いてくれない木が、頑張って頑張って彫り続けていくと、だんだんと形になっていってくれるあの感じ。


そのすべてに共感できるし、ああ、ここすごい苦労してそうって思えるから、土屋さんの作品は私にとって現実そのものなのです。

この爪の処理とか、耳の中の処理とか、もうちょっとなにかなかったのか。


結論としては、特に見る必要のない展示だったと思います。

それでもひとつだけ、オススメしたいのは、会場の入り口までは入ってください。

楠の匂いがフワッと香っていて、最高の気分を味わえます。

そのあと、お金を払って見てしまうと、うーん。まぁまぁって思います。