くま美術史

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人種差別とキラキラ【1日1品】

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とびきりリッチ。

現代のアメリカを代表するアーティスト、ラッシード・ジョンソンが美術界で活躍しはじめたころ、ニューヨークタイムズが彼の作品を評した言葉です。

その後のラッシードの活躍も、驚異的なまでに華々しいものとなります。

アメリカの名だたる美術館で展示をし、世界屈指と言われるギャラリー「Hauser & Wirth」(ハウザーアンドワース)の契約作家として新作を制作し続けています。


ただ、私には彼の作品の本質はよくわかりません。

ラッシードの、写真、絵画、映像、彫刻、インスタレーションというあらゆるジャンルを横断して作品を扱うスタイルは「美術のマジシャン」(日本語にすると極度にださい)と言われますが、作品のテーマは一貫して「黒人のアイデンティティの歴史」です。

迫害の中から、戦い、自分たちの文化を築き上げていった歴史。

これ!

この「黒人の差別問題」というやつは、日本の田舎で育った私にとって縁が遠いものです。

奴隷制度や、南北戦争、その後の公民権運動のことを学び、その悲惨さや苦しみは理解できても、やっぱりどこか遠いところの物語という印象が強いのです。

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おそらく、すごく幸せなことだと思いますが、私は「人種差別」というものをほとんど経験したことがありません。

中国に3年間住んでいた時も、日本人だから得すること(海外旅行しやすい。ちょっとモテるなど)はあっても、差別を受けた経験はありません。

日本で、駅前のヤンキーにからまれたことはあっても、海外で犯罪に巻き込まれたことは1度もありません。

それどころか、2011年の大震災の時には、たくさんの国の人に心配されたり、親切にされました。

日本と仲が大変悪い中国に住んですらこれですから、人種差別なんて本当にあるの? っていうのが、正直なところです。(いや、もちろんあるのはわかってるけど、体験としては出会ったことがないんですわ。)


だから、私も人種レベルで嫌いなものとか、民族レベルで憎むとか、そういった感情がまったくわからないし、その中で戦い、自分たちのアイデンティティを築いていくというのが想像できないんです。

 

ニューヨークに行って驚いたのは、その自由さでした。

おどろくほど開放的で楽園のようなあの場所で、今でも人種差別なんて古めかしいものが存在していることが、理解できないんです。

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それでも、このラッシードの作品は、美しいと感じます。

本日の1品はこれ。

黒1色のシンプルな作品なのに、圧倒的な密度と、言葉にしづらいキラキラ感があります。

悲しいだけではない、力強さも感じます。

これを作らせる背景の壮絶さって、すごいものなんだろうな。


うーん。

でも、やっぱり私は人種差別の問題がストンと理解できてないから、この作品の奥にある「すご美」みたいなものはわかってないのかなぁ。

ここらへんが、西洋の文化である「美術」を楽しむときの、最終的なハードルかなって思いました。


いや、それでも、ラッシードのキラキラ感は果てしないわ。

こいつ、どこまで行くんだろう。