くま美術史

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石川直樹さんの講演会に行ってきました【1日1品】

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今日は1品ではなく、作家のインスタグラムから数点貼っていきます。

 

さっき、探検家で登山家で写真家の石川直樹さんの講演会に行ってきました。

毎年、ご自身で登られた山の話をする会で、今年で5年目だということです。

今回は、今年の6月に登ったアラスカにある「デナリ」という山のお話をされていました。

昔は「マッキンリー」とも呼ばれていましたが、2015年から正式に「デナリ」と呼ばれるようになった山です。

グーグルマップでは、まだマッキンリーと書かれています。

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石川さんは、独特の経歴の持ち主です。

早稲田大学に入学後、本格的に山に登り始め(といっても大学の部活などには所属していない)、卒業後は東京芸術大学の大学院に入学します。

たぶん写真はそこで学ばれたんだと思います。

その後は世界の高峰や、秘境に行き、写真を撮って発表。

日本の写真の賞で最高峰と言われる「土門拳賞」を受賞するなどの大活躍を続けています。

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うん。

まあ、でも、なんというか、石川さんの作品は本当にすごい。

昨日、トーマス・ルフの話をしたけれど、ルフとはいろいろ正反対。


ルフは、写真で作品をつくるために、写真は撮らないで、写真をつくる。

写真作品をつくるために、研究と創作をやっていると思います。

石川さんは、山に登るついでに写真を撮る。

行きたいと思った場所に行き、そこにある、すごく美しいなにかを、自然に捕まえてくる。

たぶん、写真で成功した今は、登山費用捻出のためのある意味「道具」でもあると思うんです。

もちろん写真のことは好きだろうし、たぶん写真で有名になっていなかったとしても、山に登る時にはカメラを持って行ってそこにあるものを撮っていると思います。

でも、たぶん基本的には「冒険」が最初。

写真は、ついでと言えばついで。

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だからこそすごいものがそこに写っています。

「いい写真を撮ろう」というモチベーションでは、簡単に命を落としかねない危険な場所にそう何度も足を踏み入れたりはできないと思います。

街で、カメラ構えているおしゃれさんはよくいるけど、彼らが8000m峰に写真を撮りに行ったりしないですもんね。

石川さんは、単純に「あの山に登りたい!」という想いだから、人間の能力の極限までを使う場所に足を踏み入れられるんだと思います。

ほら、登山家って、厳冬期に8000mの山に登ったりするような、クレイジーな人たちだし。

ネジが外れているんじゃなくて、突き抜けている感じでやばい人たちだから。

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それでも、石川さんは圧倒的に美術作品として写真を評価されている。

他の多くの登山家も、山にはカメラを持って行くし、写真を撮っていると思います。

でも、そのほとんどが、美術作品にはなりません。登山の記録です。

(だから悪いわけではなく、撮影した写真に美術の文脈がハマるかどうかの話です。ハマったら、付加価値がつくねって話です)


なぜか。


美術とは、見えずらいものを、別なかたちで見えるようにする行為です。

高い山などは、普通の能力と情熱ではたどり着けない場所であり「見えないもの」です。

ここに行く能力を持つことがひとつの条件。

もうひとつは、その見えないものを「見える」ようにする技術です。

写真は誰がとっても同じものが映るわけではありません。

石川さんの撮影技術なくして、これらの写真は撮れないのです。

そういう意味で、石川さんの写真は、美術作品だと言えるのです。

見事!