野菜の日【1日1品】
8月31日。
今日が、なんの日か知っていますか?
8、3、1
そう。野菜の日です。
うちのおじいちゃんおばあちゃんは生粋の農民だったため、春はふきのとうの芽吹きで始まり、田植えをし、ジャガイモや、トマト、ナスにとうもろこしなどを家の前の田畑で育てるのは当然のことだと思って幼少期を過ごしていました。
冬は大根とネギを育てる傍で、翌年の土作り。そのサイクルの中で生きていました。
もちろん完全なる自給自足ではありません。
近所の人らも同様に田畑をもっているため、夕方には玄関の前にカゴが置かれ、野菜が山盛りにいれられているので、それらも食べます。
また、我が家も隣の家の玄関前に野菜を置くこともあります。
野菜は、通貨であり、コミュニケーションツールなのです。
そんな風に暮らしてきたため、私にとって野菜は、友でも、恋人でもなく、まさに家族なのです。
たまに友達(魚)と遊んだり、愛人(肉)と浮気することもありますが、帰るべき場所は野菜のふところです。
全は野菜。野菜は全。
私も、宇宙も、野菜の一部であり、野菜そのものなのだ。
……そう思っていました。あの絵を知るまでは。
あの絵を初めて見た瞬間に、自己の浅はかさを痛感しました。
あそこに描かれた野菜は、野菜でありながら、野菜を超えたものであり、また、まぎれもない野菜なのです。
私はどこかで慢心していたのでしょう。
いや、野菜を家族だなどと言いつつ、野菜のことを信じきれていなかったのかもしれません。
本日の1品は、江戸時代の天才絵師 伊藤若冲の「果蔬涅槃図(やさいねはんず)」です。
伊藤若冲については、大人気すぎていろいろなところで書き尽くされているので、ここで多くは触れません。
ざっくり言うと、京都は錦の野菜問屋に生まれ、若い頃はつつがなく家業を営み、40になると弟に家業を任せて、自分は絵の世界に没頭していたという変人です。
最近は本当に大人気で、若冲の展覧会はいろいろな美術館で企画され、いつも大行列ができるほどです。
私はそれがうれしい。
生きている時には、そこそこの人気絵師だった若冲は、明治から大正、昭和の初期にかけて、その価値をまったく評価されませんでした。
それが、現代になって、再度その価値を認められ、世界中で愛されるようになった。
本当にうれしい!
この果蔬涅槃図は、若冲の中でも代表作であり、まぎれもない名品です。
京都国立博物館が所蔵しています。
仏教の祖であるブッダが入滅(死んだ)ときに、多くの動物たちがその様を見届けようと、ブッダを取り囲んだと言われます。
その様子を、野菜で表現したのが、この絵です。
中心には、ブッダとして大根があり、周りにはサトイモ、ナス、カブにトウモロコシなど、様々な野菜が取り囲んでいます。
すごく真面目な話、この絵は世界で3本の指には入るものだと私は思っています。
発想、技術、愛着、遊び心、観察眼、大胆さ、繊細さ、ひたむきさ、生真面目さ、信仰心、喜び、悲しみ。
人間のポジティブな能力の全部があります。
伊藤若冲が生きた後の世界に生きることができて本当に幸せ。
この絵を、見ることができたんだから。