くま美術史

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アーティストは金稼げ【1日1品】

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シン・ゴジラ」、見ました。

遅ればせながら、昨日の夜に見ました。

心に響きまくりで、揺さぶられるままにいろいろな感情が押し寄せています。グワッと。


いろいろな感想はあるのですが、やっぱりこれだけは言いたい。

庵野秀明……すげえよ、あんた。すごすぎるよ。


さんざん言われていますが、今回の映画の成功要因は「資本的独立」による「責任と権限の集中」にあると思います。

東宝株式会社が、1社提供で資金を出し、庵野監督の意思を最大限に表現できる環境を整えた結果、1秒1秒が庵野さんの色や音やにおい。

これって、本当にすごいことです。


ゴジラですよ。

マリオや、ドラえもんに並ぶほどの、超ビッグネームですよ。

いかにヒット作を飛ばした監督でも、じゃあ任せるよってわけにはいかなかったはずです。(知らんけど)

きっと、映画の中であった以上に、会議が続き、粘り強い交渉の中で、表現をする権利を勝ち取ったんだと思います。(もちろん知らんけど)

そう妄想すると、涙が滲みます。


いや、わかりませんよ。

 

東宝の偉い人「庵野君。ここはひとつ全部任せるよ! 好きにやっちゃって」

庵野監督「いいよ」

みたいな感じだったかもしれません。

それはそれでカッコいいし、別にどっちでもいいよ!


とにかく、言いたいことは、表現をする上で「資本的独立」はとっても大事だってこと。

映画はもちろん、美術の世界も、ここ数十年は大規模プロジェクト化しているので、資金の出所はとっても大事な問題なのです。


ふわふわ美大生が「お金のために作品をつくるようなことはしたくない」って、よく言うんですが、本当によく言うんですが。

違うよ。それ、すごい勘違い。

最終的に、自分の表現を突き詰めたかったら、自分でしっかりお金を稼げることは必要条件。

デカいプロジェクトであればあるほど、口を出してくる奴らも多くなってくるから、その時に自分の意見を通せるかは、スポンサーに「NO」を言えるかどうか。

それは、自己資本の安定性にかかっています。


で、今日の1品は、史上最も大きなプロジェクトを数多くこなし、かつ、そのプロジェクトの経費をすべて自己捻出したというとんでもないアーティスト。

クリスト&ジャンヌ=クロード

夫婦のアーティストユニットですね。


代表作は、ドイツの国会議事堂を布で覆った作品「梱包されたライヒスターク」(1995年)。

もう一回言います。

ドイツの、国会議事堂を、まるっと、巨大な布で、包む。

 

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こんなんやりたいって言って、許されます?

別にドイツは頼んでないですよ。

クリストが、これやりたいって言って、実現させました。


これがアートなのかどうなのかとか、難しいことはいいんですよ。

日本の国会議事堂が、まるっと布で包まれます。って言われたら、よくわかんないけど見に行きたくなるでしょ。

わけわかんねえけど、なんかすげえって思うでしょ。

同時に、なんでそんなことしてんの? アホなの?って思うでしょ。

それ最高ですね。


クリストは、「これつくりたい」って思ったら、完成形をイメージした絵を描いて、それを販売して資金を集めます。

予算に達したら、実際に作品をつくって公開します。

だから、自分のやりたいことができる。

すごく正しい表現者のかたちだと思います。