くま美術史

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霊だってアート【1日1品】

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先日、瀬戸内海にある「直島」に行ってきた。

「瀬戸内国際芸術祭」というお祭りを見に行くためだ。

直島では、地中に埋まった「地中美術館」や、「ベネッセハウスミュージアム」などの美術館があり、いつでもすばらしい作品を見ることができる。

だのに、このお祭りの期間だけに特別に展示された作品があって、お盆の人の群れと猛暑をがまんして行ってきた。

その作品とは、丹羽良徳(にわよしのり)の「歴代町長に現町長を表敬訪問してもらう」

この作品を説明する前に、まず直島のことを簡単に知ってほしい。


直島は、激動の歴史を持つ島だ。

瀬戸内の小さな島であるため、産業基盤は弱く、経済的な衰退を危惧した何代か前の町長が、三菱の銅精錬所を誘致する。

その結果、経済的には豊かになるが、精錬所の煙によって島の半分の木が枯れてしまう。

また、隣の「豊島(てしま)」に産業廃棄物が捨てられるなど、環境問題がヤバすぎることに。

というわけで、急遽リゾートな島を目指し、キャンプ場などつくるもなかなかうまくいかない。

そこにベネッセ創業者である「福武哲彦」の息子「福武總一郎」が「ベネッセハウスミュージアム」を建設。

その後も「地中美術館」や、「李禹煥美術館」などをつくり、アートの島「直島」として認知が拡大し、国内外から多くの観光客が訪れるようになる。

このように、衰退→工業→汚染→衰退→美術→いい感じと、忙しい島なのだ。


丹羽さんはアーティストとして、この直島に作品を展示する依頼を受けた。

丹羽さんはただのアーティストではない。社会派だ。社会派なアーティストだ。

丹羽さんはこう考えて作品をつくったかもしれない。

直島の町長さんは、今も昔もさぞ気苦労が多く、彼らにしかわからない悩みなどを抱えていらっしゃるだろう。

だから、今の町長さんと、過去の町長さんに話し合いの場を提供し、意見を交わすことで、直島をもっといい島にしてもらうという、世の中のためになる作品を作ろう。

そうだ! そうしよう!

ただ、問題は、昔の町長さんは死んでしまっていることだな。

まあ、でも、だいじょうぶ。

霊媒師を連れてきて、昔の町長の霊を降臨すればいいだけだ。

と、いう作品です。


実際に、数名の霊媒師の方を呼んで、現町長さんの前で過去の町長を降ろしてもらい、アドバイスなどをもらう様子を、撮影し、放映するという作品です。

パープルの法衣を着た「いかにも」なおっさんが、過去の町長を降臨させ、笑いをこらえながらその話を聞く様子などが映されています。

ただ、これは霊媒師の胡散臭さを告発する作品ではありません。

それどころか、作品の中に出てくる「いたこ」のおばあちゃんからは神々しさすら伝わってきて、感動をおぼえます。

「霊」も「美術」も、ぶっちゃけ胡散臭いものですが、必要のなかで育ってきた文化なんだなと感じられます。