一枚の絵がクリエイティブな発想をあなたのもとに
最近、こんなことを聞かれました。
「絵を部屋においたら、クリエイティブな発想が浮かんできたりしますか?」
浮かびません。
絶対に、浮かびません。
置いただけで新しい発想が……。
それって、持っているだけで幸福になる壺とか、数珠とか、その類のものです。
そんなのありません。
でも、そうやって売られている物ってけっこうありますよね。
よくあるのが本。
「ビジネスマン必読! これを読めば不思議なくらい仕事ができるようになる! 」みたいな。
なりませんよ。
一冊の本で、人生が変わることもあります。
でも、それは、その本の前に、何百冊もの本や、たくさんの経験が積まれ、その上で鍵となる一冊が扉を開いてくれただけ。
本当に大切なものは、自分自信の中に貯まっているはずです。
貯まっていたものをうまく引き出してくれたのが、一冊の本だっただけです。
だから、
「一枚の絵が人生を変える」
みたいなこともありません。
恥ずかしげもなく、こういうこと言えたら楽だなと思います。
当たり障りなくかっこいいし、なんかクリエイティブって感じがする。
でも、これ言いだすと、誠実さのかけらも無くなっていくんで、私は言いません。
一枚の絵は、ただのキャンバスと絵の具です。
役になんて立たない。
無益。
ただ、100枚の絵は人を変える可能性があります。
100枚の絵と、旅先の思い出と、故郷の美しい風景がつながれば、そこには何かがあると思います。
重要なのは知識の量と、そこから考えることです。
そして、考えたあとの行動です。
少しのものを、買っただけ、見ただけ、読んだだけで何かが変わるはずありません。
だから、なにも考えない人にとって、美術は無駄なものなんです。
とにかく役には立たないし、わかりやすいヒントもない。
でも、役立たずで、理解しにくいものって、大事だと思うんです。
ほら、クソみたいなバンドマンと付き合うって、一見無駄な行動じゃないですか。
「なんで将来有望なKOボーイと付き合えばよかった」
「商社マンと出会っておけばよかった」
アホな疑問ですが、こう思うのもわかります。
でも、クソみたいなミュージシャンと付き合ったおかげで、自分の価値観や人生に疑問を持ち、どうありたいのかを考えるきっかけにはなると思います。
そして、そのあとはKOボーイとか、商社マンとかに手を出し、とんだステレオタイプの自意識過剰先生で、意外になんの才能もないことにげんなりし、またあらためて自分の価値観を見つめ直すんだと思います。
トライandエラーではなく、エラーがあるから人はトライをしていくんだと思います。
話を戻します。
美術品をちょっと見たって、何も変わらない。
特に「わー!綺麗!」なんていうものを見ても無駄。
ただ、とんでもなく理解不能な美術と、一瞬でも本気でむきあえば、自分のなかで新しいなにかが、出てくるかもしれない……かもしれない。
美術品は、人の人生の失敗や挫折の集合体。
失敗は、とても美しいものなんです。
Error is beautiful
くま美術店でした。